制御環境下での植物栽培ーその究極は植物工場ー
光や温度,二酸化炭素濃度などをコントロールした制御環境下での植物栽培の究極は,植物工場です(写真).植物工場には,人工光のみで栽培する人工光利用型と太陽光を主に利用し,曇りや雨天など太陽光が弱い場合に人工の光源を利用する自然光・人工光併用型があります.現在の好景気に伴い,企業の植物工場への関心は高まりつつあります.衛生管理された工場で生産される野菜のメリットは以下の通り.
・洗わずに食べられるので,外食産業向けである.通常,リーフレタスは洗った後,水を切るのに数時間要するが,この手間が省ける.
・作業が通常の農業に比べ簡素化されており,重労働からある程度開放される.
・安定生産,安定供給,安定した出荷額が可能.2006年1月の降雪と寒気に伴う野菜価格の高騰時でも,植物工場はリーフレタスをいつもと同じ価格で出荷していた.
・無農薬で栽培できる(ただし,化学肥料を用いる).
(注)化学肥料と書くと抵抗感を持つ場合がある.しかし,露地野菜にも様々な化学肥料が植物に必要な栄養分(窒素,リン,カリ)を補うために使用されており,植物工場に限ったものではない)
しかし,今のところ植物工場は決して儲かるものではありません.その理由は以下の通りです.
・レタスを日3000〜10000株出荷できるのが,現在の植物工場の規模だが,この栽培施設を建設するのに,3〜6億円,あるいはこれ以上の費用を要する.
・電気代に起因するランニングコストも高いため,出荷時のリーフレタスの価格は,100円/株近くする(減価償却費も含む).露地もののリーフレタスの場合,一般的なスーパーマーケットでの販売価格が100円〜150円であり,露地ものとは価格の面で競争できない.
・空調施設や人工光(安定器)の寿命は意外と短い(5年〜10年)
・今のところ,リーフレタスが主な生産物で,他にハーブ類がある.もちろん,水耕栽培で栽培される他の野菜(ミツバ,ネギ,ホウレンソウ,トマトなど)も栽培可能であるが,わざわざ人工光を使うまでもない.
したがって,事業者が様々な工夫をしています.
例
・独自の販路の開拓.洗わずに食べられることをアピールして,外食産業や食品業界への売り込み.
・光源や照射方法の開発.長寿命発光ダイオードを自社で開発した事業者もある.
・輸送コストの削減
実は,ここ20年,発光ダイオードが新たな光源として使用されたことを除き,ドラスティックな技術革新は起こっていません.植物工場の更なる普及には,以下の技術革新が必須です.
・高効率光源の開発.入力エネルギー当たり植物に必要な光の発光効率を向上させる.現在の発光効率は高くとも30%前後です.これが60%になれば光源の電気代は半分になります.
・植物への照射方法の改良による,光の高効率利用.反射板やランプの形状の改良により,葉に吸収される光量を増やす.
・施設の低コスト化.高耐候性で低コストな施設を開発し,初期コストを低減させる.
・高付加価値植物の生産.植物工場でないと生産できない植物がないか?
参考になる機関:植物工場普及振興会,日本生物環境工学会植物工場部会
HPは容易に見つかります.
植物工場が普及すれば,普通の露地栽培は必要なくなるか?
答えはNoです.お金のかからないタダの太陽光を用いる農業は,エネルギー的に無駄がなく,コストがかからず,かつ電気使用に起因する二酸化炭素を出しません.自然光を用いるのが明らかに地球に優しいのです.
植物工場はあくまで農業の1つの形態,オプションと考えてください.安定生産・安定供給というメリットがあるので,露地ものが不作時にはその重要性が認識されますが,自然光を用いた農業でも,工夫次第で労働作業の簡素化,高品質野菜の栽培は可能です.いずれにせよ流通まで含めた事業者の創意工夫が求められます.