田子の浦浚渫土砂のセラミクス化による植物栽培への利用

田子の浦の浚渫土砂は、年間13万m3と大量で、現在その処分に困っています。本研究は、谷准教授が東海大学在任中の1997年から2000年に同大学開発工学部素材工学科との共同研究で、この浚渫土砂をセラミクス化しバラの養液栽培用培地として利用できるか検証試験をしました。

以下に実験方法と結果の一例を示します.


(植物工場学会2000年度大会講演要旨に加筆)

はじめに 
 著者の大学が位置する沼津市に近接する田子の浦港では、港湾浚渫にともない大量の底泥が処分されている。東海大学の研究グループでは,この底泥を1000℃以上の高温下で焼結するシステムを試作し,その性能を検討するとともに、焼結物のバラ養液栽培用培地としての利用可能性について,培地の物理性および化学性の両面から検討してきた。本報告では,2年間にわたる栽培実験の結果を報告する。 

材料と方法

栽培試験 バラには、品種ソレイユを用いた。発根した挿し木苗を1998年6月10日に定植した。自然光温室内にてドリップ潅水式の養液栽培で育てた。培地には、底泥に何も加えず約1200℃で焼結した無混入焼結培地、焼結前にガラス屑を混入したガラス屑混入焼結培地、またそれぞれの焼結培地に保水性を高める目的でスギ樹皮培地を混ぜたもの、比較としてスギ樹皮培地単独および通常バラの養液栽培に使用されるロックウールの6種類を用いた。各処理区で10株のバラを3本仕立てで栽培し、1998年12月上旬から2000年4月まで計7回の採花を行った。

測定項目 栽培期間中、培地を通過した養液のpH、ECを測定した。また、各培地に熱電対を5本ずつ深さ5cmに差し込み培地温度を測定した。培地中のガス濃度を測定するため、テフロン製の直径1cm長さ10cmの筒に防水フィルターを付けた採取管を各培地に5箇所埋め込んだ。各採取口から注射器で1mlずつ培地内ガスを採取し、ガスクロマトグラフ(TCD)で測定した。無混入焼結培地、ガラス屑混入焼結培地、スギ樹皮培地の体積含水率を測定した。焼結物、その溶出液およびバラの葉の元素含有量(47元素)をICP-MSを用いて分析した。採花の度に花茎の長さによる等級評価、茎の曲がり具合を測定した。

結果と考察 
1999年10月初旬、給水がストップしてバラがしおれた。この時、ガラス屑混入焼結培地では葉の黄化、新芽が枯れる等の被害を受けたが、他の培地では葉の黄化のみが観察された。これは、ガラス屑混入焼結培地の体積含水率が一番低く、培地に保持される水量が少ないため水ストレスを強く受けたと考えられる(右表)。このことから、突然の断水等による植物被害を遅らせるために、あらかじめガラス屑混入焼結培地に体積含水率の高いものを混ぜたり、焼結物の粒径を更に小さくすることが必要と考えられた。
培地中の酸素、二酸化炭素濃度は培地間で大差なく(右表)、植物の生育に悪影響を与える濃度域に達していなかった。培地温度の日較差はロックウール培地と比べて、無混入焼結培地、無混入焼結培地+スギ樹皮培地、ガラス屑混入焼結培地、ガラス屑混入焼結培地+スギ樹皮培地で大きかった(左下図)。これは培地中の含水量の違いが一因と考えられるが、この温度較差の培地間における相違はバラの生育に影響を与える程のものではない。培地通過水のpHは、栽培中期から無混入焼結培地、無混入焼結培地+スギ樹皮培地がロックウール培地と同等な値で推移した(右表)。それに対してスギ樹皮培地、ガラス屑混入焼結培地、ガラス屑混入焼結培地+スギ樹皮培地は低い値で推移し、特に実験開始468日以降の栽培終期では4〜5で推移した。1つの原因としては、実験開始480日ごろの断水によりこれらの培地で新葉がしおれ枯死したために、その後葉が新たに展開する際にアルカリ成分の要求度が高くなったことが考えられる。一方、培地通過水のECは、無混入焼結培地、ガラス屑混入焼結培地でロックウール培地と比較するとやや高い値で推移した。バラの葉、焼結物およびその溶出液には、環境基準値を上回る濃度の有害重金属は含まれていなかった(昨年度詳細に報告)。

 収穫物の花茎の長さの平均値は、無混入焼結培地でロックウール培地とほぼ同等であった(右下図)。ガラス屑混入焼結培地では、第2回と第3回の採花でやや短かかったが、その後はロックウール培地と同様の結果になった。茎の曲がり具合は、無混入焼結培地でロックウール培地と同様に良好であったが、ガラス屑混入焼結培地で大きく湾曲した茎を少量収穫した。

 以上のように、用いたガラス屑混入焼結培地は粒径が比較的大きかったため、給水停止時に植物が大きな水ストレスを受けた。無混入焼結培地ではロックウール培地と比較して、成育を抑制するような化学的および物理的環境要因は見当たらず、収穫物の品質も同様であった。二年間の栽培試験結果を総合すると、無混入焼結培地はバラの養液栽培用培地として利用可能であると結論づけられた。

論文

谷晃・鳥養祐二・林真紀夫・赤羽光雄・上村税男・佐々木雅美・高辻正基. 1999. 田子の浦底泥焼結物の植物育成培地としての利用可能性に関する研究(1)焼結物の元素分析と予備栽培実験結果. 植物工場学会誌11(2)121-126.

谷晃・山上睦・林真紀夫・鳥養祐二. 2001. 田子の浦底泥焼結物の植物育成培地としての利用可能性に関する研究(2)バラ養液栽培の実験結果. 植物工場学会誌13(4)262-269.